師弟関係に思うこと。
■師弟関係にある教育のヒント
日本の教育について考えるとき、先生と生徒の関係も気になります。体験授業などで学校を回って驚くのが、子どもが先生に対してフレンドリーなことです。休み時間はまだしも先生に物を尋ねたり、教えを乞う姿勢が出来ていないことに驚くことが有りますが、そのことを先生も良しとして、子どもに慕われているのだと受け入れています。
私たちの伝統芸能の世界ではフレンドリーな師弟関係などありえません。能の役者は一生涯を掛けて山の頂点を目指して登ります。先輩も後輩も、同じ苦労をともに感じあっている仲間です。
その先輩に対して、「稽古をつけてください。よろしくおねがいします」と礼儀を尽くすと前を行く先達が後輩に向き直して稽古をつけてくださる。だからそのときは先輩を100%信頼し、言われた通りに従う。「俺はあの先生が嫌いだから稽古は受けたくない」というような感情的な判断をやめる。さらに、今までためてきた知識の束縛を離れ没頭する。これこそ世阿弥の言う「情識(じょうしき)は無かれ、稽古は強かれ」(漢字に注意!!)ということなります。
先人の経験を通して、自分がまだ経験していないことを教えてもらうんだという覚悟の意識が挨拶に現れています。授業開始の鐘と共に先生に対して「授業を宜しくお願いします!」とあいさつをして、なおかつ終了時に「有難う御座いました!」と挨拶をする事が有っても良いと思います。
●今も伝統芸能の中に息づくこのような師弟関係のあり方も、現代の教育現場で生かしていけるのではないでしょうか。
職人の世界は、子供のころから専門教育を受けて育ちます。幸か不幸かはわかりませんが、大人になったら家業を継ぐことになる。その為、子供のうちから技芸を仕込むことが、とても重要になってきます。
小生などの能楽師の場合は理屈抜きで身体全体で小鼓を打ち、声を出す。物事をあまり考えないうちに、毎日、毎日身体を動かしていく。すると日々変わっていく身体と理想の演奏とのズレが実感できるようになります。
これはスポーツと同じかもしれません。素晴らしい球を打つために、テニスでも素振りを繰り返します。こうした稽古を子ども時代に積み上げた後、二十歳までに役者バカにならない為に一般教養を学んでいきます。
大学を卒業する時点になって就職活動をしなければならないような現在の人材育成方法とはまったく逆です。このような職人としての教育方法や価値観の重要性を、再認識すべきだと思います。
映画「シンドラーのリスト」で子供を国外に退出させるのに不審がる国境警備兵に対してシンドラーが「この子たちは9口径の薬きょうを磨く熟練工だ、君たちの大人の指で磨けるのか!?」と大勢の子供たちを武器工場の熟練工として通過させる場面が有ります。このように職人の世界を大切にする文化がマイスター制度などに見るドイツの優れたところだと思います。
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